私が受けた職業訓練、受けたい職業訓練 2018 年11月24日(土) 亀山 洋(かめやま ひろし) 1.自己紹介 1961 年(昭和36年) 4月生まれ 満57歳 妻と1男1女の4人家族 子供ふたりは、すでに就職しております。 現在、株式会社 USEN に勤務、所属部署は、事務センター 大阪管理課です。 勤務先の最寄り駅は、大阪メトロ谷町線 谷町九丁目。です。 毎日の通勤は、自宅より最寄駅まで徒歩約 10分 電車(地下鉄)約20分 (乗り換えなし) 会社まで徒歩約15分(中国人観光客が多く、よく接触してます。) 2.視覚障害の状況 病名:錐体杆体ジストロフィ 視力:両眼とも指数弁 網膜の損傷 95% 以上 冶盲あり 右目の方が若干よく見えています 障害等級:1級 2006 年前半までは、運転免許もあり、健常者として生活しておりました。冶盲を発症したの は、5年くらい前です。夜間は、黒い画用紙に白い絵の具で街頭や窓のあかりを描いたように 見えます。 発症次期: 自覚症状は、40歳ごろからでした。初診の開業医では対応できず、愛媛大学医学部付属病院 眼科を受診しました。その後、3年ほど経過観察や全身の精密検査を受けました。サルコイ ドーシス、ベーチェット病などを疑われましたが、最終的には確定診断を得られないまま、 名古屋大学医学部付属病院眼科の近藤医師を紹介されました。 2006 年(平成18年)8月、同医師により、初診で上記疾患の確定診断を得ました。 現在は、京都大学医学部付属病院眼科にて年1回、定期的に経過観察中。有効な治療法、処 方薬が存在しないため、医療費の負担はありません。 3.職歴 --1/6-- 2007 年までは、四国で営業写真館を経営しておりました。父が開業した店で、約20年くら い、いわゆる「町の写真屋さん」として働きました。上記疾患の確定診断を得たことから、事 業を廃業し、関西に移住しました。 2007 年より2013 年まで約6年間、兵庫県の製造業の会社にて、総務部労務課職員として勤 務しました。担当業務は、給与計算・社会保険事務・労働安全衛生関連事務などです。 当時は、Windows パソコンに、インテリポイント・ユーティリティをインストールし、画面拡 大のみで作業が可能でした。徐々に視力が減退したことに加え、冶盲発症のため退職しまし た。 4.受けられた職業訓練の内容 2014 年初頭、ハローワークで求職中に岡山県加賀郡にある国立 吉備高原職業リハビリテー ションセンターを紹介されました。たまたま障害者雇用担当者が、同センターのことを知っ ていたことが幸いしました。 2014 年6月より、寄宿舎に単身入所して訓練を開始しました。職リハでは、唯一視覚障害者 向けに設けられている「ITビジネスコース」を受講しました。 訓練期間は、原則24か月で、職業に就いていない障害者のみが対象です。 視覚障害の状態は、訓練生それぞれに異なりますので、読み上げソフトや画面拡大ソフト、 拡大読書器など指導員と相談して、訓練環境を整備します。 ・使用するPCは、全員同じ機種のデスクトップ型です。 ・拡大読書器は数種類用意され、いろいろなタイプのものを試すことができました。 ・音声読み上げは、骨伝導ヘッドフォンで使用しました。 訓練は、基本的に自学自習形式で進行します。エクセルやワードなどのビジネスソフトごと に、課題の解答を作成し、指導員に提出して評価を受けます。正解すれば次の課題に進み、 誤っていれば、自分で訂正して再度提出します。解答方法や考え方が分からないときは、指 導員の説明を受けます。 使用するソフトウェアについて、初めは基本操作を学習し、基礎的な画面情報の確認方法や データ入力などを覚えます。 拡大読書器や肉眼で書籍が読める人は、備え付けの参考書を見ながら課題を解いてもよく、 墨字が読めない人向けには、必要な情報や問題文などをテキストファイルにしたものが提供 されます。 課題の解答を作成する作業と同時進行で、読み上げや画面拡大ソフトの操作も覚えなければ いけないので、初めはかなり時間がかかりました。 --2/6-- ①最初に始めたのは、タッチタイピングの習得です Windows7 環境にて、音声読み上げソフトウェア(PC-Talker )、画面拡大ソフトウェア (ZoomText) を併用しながら、音声読み上げ対応のタッチタイピング練習ソフトでキー入力の 練習です。 ある程度入力が速くなった時点で、紙に印刷された文章を拡大読書器で読みながら、まった く同じ文章とレイアウトをワードで再現する課題に移りました。 実際にプリンタで印刷した文書を二穴パンチを使用してファイリングしてから、指導員に提 出します。誤字脱字やレイアウトの不備があれば、やり直しの指示を受けます。この作業は、 訓練期間中、毎朝行いました。 300 文字程度の文字入力を、安定して10分以内という目標でした。 ②インターネットを利用した検索と情報収集 InternetExplorer の操作方法や検索機能を習得します。 ・YAHOO が提供している乗換案内サイトでの検索 時刻表や運賃を参照して、課題にある出張計画の作成や旅費の計算などを行います。 ・業界・企業動向調査 自動車、鉄鋼など特定の業種を選んでさまざまな企業の業績や市場シェアなどをリサーチし、 報告書を作成します。 特定の企業について、会社情報の報告書を作成します。 ③Microsoft Office アプリケーションでの課題対応 ・エクセル基礎 基本操作や罫線、フォントなどの書式設定 ・エクセル応用 関数や計算式、ピボットテーブル作成、グラフ作成 ・ワード 基本操作から、表作成まで ・パワーポイント 視覚障害のレベルに応じて、画面情報の読み取りやスライドの作成をします。 ・アクセス PC-Talker では十分に読み上げないので、初心者は基本操作の解説のみです。 経験者で、ある程度画面が見える人は、実際にテーブル作成やクエリ、データ抽出などの課 題に取り組みます。 ④HTML 基礎 ・ソースコードの記述方法、各種タグの知識、表作成など。 ⑤資格取得 事務職に従事する際には、資格を保有していると就職や就労に役立つことがあります。 私は、簿記の資格取得を勧められ、個人授業形式で試験勉強しました。 --3/6-- 私が取得した資格 ・ITパスポート ・日商簿記3級 ・全商簿記2級 そのほか、障害状況に応じた受験方法で、視覚障碍者でも受験可能なPC検定や医療事務など が受験可能です。 5.就労までの経緯 ハローワーク主催の障害者向け合同就職面接会に参加しました。 京都府・大阪府・奈良県で参加し、30社ほど応募しましたが、すべて不採用でした。年齢面 でのハンデと同時に、企業が視覚障害者の就労には不信感を持っていることを実感しました。 面接会の対応は、良くも悪くも「お役所」的なもので、このままでは訓練期間内で採用は望 めないと思い、民間の障害者向け就活企業であるサーナとクローバーに登録しました。 サーナの合同面接会は、数十社から百社以上が参加するハローワーク主催のものとはまった く異なり、10社程度しか参加しません。 しかし、各企業の担当者が、求めている人材やスキルについて詳しく説明するパネル・ディ スカッションや、就労に関する悩みや疑問が相談できるカウンセリング・ブースが設けられ ているなど、たいへん参考になりました。 サーナで二度目の面接会に参加した時に面接を受けたのが、現在勤務している会社です。か なり倍率が高いようでしたが、求人の対象がある程度社会経験を持っている人と言うことと、 採用担当者が東京四谷にある訓練施設を見学して、視覚障害者の採用に前向きだったことで、 幸い採用に至りました。 6.現在の業務と職業訓練で役立ったこと ●職務内容 所属は、事務センター管理課。顧客情報を管理し、営業部門と連携して各種の事務処理を行 っている部署です。 管理課は、実作業ではなく、センター内にある実務グループの業務調整や必要な連絡・サポ ートなどを担当しています。その中でも、私には締め切りや作業時間について、あまり厳し い制約がなく、伝票や契約書などの印刷物を扱わなくてよい作業が割り当てられています。 ・所属部署の予算管理業務の補助 部署が担当している経費支払い関連申請書の作成、前営業日付未入金額の確認など ・部署内管理業務の補助 エクセルで作成されている各種台帳の更新 部署内業務連絡メールの送受信 ・顧客情報データベースのスクリーニング 約70万件の顧客データベースをメンテナンスします。 東京渋谷の事務センターで勤務している二名の視覚障碍者が精査作業を実施し、私が月末に 精査結果を集計して報告します。 --4/6-- 作業中に発生する疑問点やトラブルなどは、直接作業に当たっている二名の視覚障碍者から その都度私に連絡があり、私から担当部署に連絡します。 実作業を三名の視覚障碍者だけで行っており、順調であれば、今後さらに精査内容を拡大す る予定です。 ●訓練が役に立ったと思うこと ・何よりも、タッチタイピングを習得できたことです。 視覚障害者にとって、誤字脱字をチェックすることはかなり大変な作業ですので、何よりも 正確なキー入力は必須です。 ・エクセルの訓練で、関数について理解を深められたこと。 データ入力のチェックや作業の効率アップに適した関数は、視覚障害者にとって強い味方で す。 ・資格を取得できたことで、周囲の社員や上司に一定の評価を得られたこと。 7.今後のスキルアップと職業訓練を含む就労支援体制に望むこと ●今後のスキルアップについて ・現在担当している業務の効率アップや正確性を高めるために、マクロやVBA を勉強してい ます。 進行性の疾患のため、症状が悪化した時のためのスキルの確保を心がけています。 ●希望すること 関西には在職訓練に対応できる体制がないので、一日も早い整備を望みます。 また、スカイプや電話、電子メールなどを利用して、直接指導員に合わなくてもサポートや 訓練が受けられるようにしていただきたいです。 私のように、転職を前提とした訓練を受ける立場から思うと、まず就職先を決めてから、勤 務で必要な訓練を受けるという仕組みのほうが、無駄なく効率的なスキルの習得が可能だと 考えます。 一般的に、失業者を対象とした訓練では、オールマイティなスキルの習得を目指しているよ うですが、指導するマンパワーとコストの点では、必要かつ十分な訓練にリソースを集中し、 就職先の職場で使用しないスキルは場合によっては割愛することも考慮すべきではないでし ょうか。 以下は、岡山の職リハに限定されることかもしれませんが、不満や疑問に感じたことです。 職リハの所在地は、JR岡山駅からバスで70分くらいかかる場所です。公共の交通機関はバ スしかなく、タクシーでは1万円以上かかります。私は何も予備知識がないまま入所したの で、訓練後に就職できた時のことを考えて白状での歩行訓練を希望しました。 ところが、指導員からは、この施設は雇用保険の枠組みで運営されているので、日常生活訓 練は一切実施しないと言われました。通勤は、勤務の大前提であり、特に視覚障碍者にはハ ードルが高い要素です。岡山市内には歩行訓練士もいると聞きましたが、前述のように気軽 に出かけられる場所ではないので、非常に困りました。 --5/6-- また、視覚障害者であっても電話応対であれば十分に可能ではないかと思っていたので、昨 今のインバウンド増価から、韓国語や中国語などの日常会話を学んでいればその方面の企業 にアピールできるのではないかと思い、そういった訓練メニューを作ってほしいと要望しま した。しかしこれもかないませんでした。 視覚障害であっても、十分に能力を発揮できる分野はありますから、現在まったくスキルを 持っていなくても効果的な訓練を受けることで、社会的に自立できる可能性は視覚障碍者す べてにあると思います。 移り変わりの激しい現代社会であればこそ、多種多様な訓練への展開を望みます。 --6/6--