就労中の視覚障害者が使用しているPCスキルの現状と課題 ○北神 あきら(1)、坂田 光子(2)、上田 喬子(1)、佐藤 利昭(2)、高西 透江(1)、藤縄 泰彦(2)、柳田 友和(2) (1)視覚障害者パソコンアシストネットワーク、(2)日本盲人職能開発センター 目的・実施方法 就労中の視覚障害者が使用しているPCスキルや、業務上必要だが使用できていないPCスキル、また職業訓練への要望などを調査することにより、よりニーズに合った職業訓練を実施するための指針とすることを目的とする。 調査は、アンケートにより実施した。回答者の募集は、メールやSNSなどを通して行い、108名から回答が得られた。 (1)回答者属性(有効回答者数 108名) ■年代:20代(9.3%)、30代(28.7%)、40代(34.3%)、50代(22.2%)、その他(5.5%) ■身体障害者手帳(視覚障害)の等級:1級と2級で92%を占めた。 ■墨字の見え方 ※単一回答 n=108  ==グラフここから== 目では全く読めない 68.5% 補助具を用いれば読みにくいが読める 21.3%  補助具を用いれば問題なく読める 7.4% 補助具なしで問題なく読める 2.8%  ==グラフここまで== ■PC操作ツール ※複数回答 n=108  ==グラフここから== 音声 48.1% 音声・ピンディスプレイ 20.4% 音声・画面調整 14.8% 画面調整 10.2% 上記いずれも使用しない 2.8% 音声・画面調整・ピンディスプレイ 1.9% 画面調整・ピンディスプレイ 0.9% 記載なし 0.9%  ==グラフここまで== ■入力ツール ※複数回答:3割がマウスを使用している。 ■職場の地域 ※単一回答(回答数108)  ==表ここから== 北海道・東北 9人 関東 18人 東京 51人 中部 11人 近畿 14人 中国・四国 4人 九州・沖縄 1人  ==表ここまで== ■職場の業種 ※単一回答(回答数108)  ==表ここから== 民間企業 61人 56.5% 官公庁 9人 8.3% 学校 10人 9.3% 医療法人 3人 2.8% その他法人 15人 13.9% 自営業 8人 7.4% その他 2人 1.9%  ==表ここまで== ■職種 ※単一回答(回答数107)  ==表ここから== 事務 46人 43.0% 営業・接客 4人 3.7% 技術 11人 10.3% 教員 10人 9.3% 研究 2人 1.9% 福祉 5人 4.7% ヘルスキーパー 5人 4.7% 三療(あはき) 10人 9.3% その他の医療職 3人 2.8% その他 11人 10.3%  ==表ここまで== (2)PC環境・アプリケーションに関する結果 ■PCのOS ※複数回答 Windows 7(83.3%)が最も多い。続いて最新のWindows 10(22.2%)の使用が進んでおり、Windows8(11.1%)を抜いていることが分かった。 ■使用している画面読み上げソフト ※複数回答  ==表ここから== PC-Talker 72人 JAWS 36人 NVDA 30人 その他  7人 なし 12人  ==表ここまで== ■使用している画面拡大ソフト ※複数回答  ==表ここから== 拡大鏡 15人 ZoomText 12人 なし・未記入 9人 ※「目で墨字は全く読めない(74人)」を除く  ==表ここまで== ■アプリケーションソフト ※複数回答 回答が多かったのは、まず、Excel(95.4%)やWord(88.9%)を始めとしたMicrosoft Officeソフトである。 ウェブブラウザも、Internet Explorer(86.1%)に続き、Mozilla Firefox(18.5%)、Google Chrome(13.9%)など、数種類が挙げられた。 社内システムとして、SharePointやLotus Notesなど市販のソフトや会社独自のシステムを挙げたのは53人に上った。 ■使用しているOfficeの環境 ※複数回答  ==表ここから== Office2007以前 18人 Office2010 58人 Office2013 35人 Office2016 11人 Office365 10人  ==表ここまで== ■視覚障害者用ソフトウェア ※複数回答  多く挙げられたのは、MyEdit、NetReader、MyMailであった。テキストエディター、ウェブブラウザ、メールなど、日常的に使う頻度の高い機能は、支援ソフトを利用することで効率化が図られていると推測される。 ■使用しているMS Officeの機能 Wordは、印刷など5つの機能を半数以上が使用していたほか、表の操作(39.8%)、段落書式(38.8%)だった。 Excelは、11の機能を半数以上が使用していたほか、フィルター(47.6%) 、塗りつぶし(41.7%)が目立った。 一方で、関数は、SUM (57.3%)、IFなど3つが20%台、それ以外は2割未満と、あまり使用されていなかった。 PowerPointは、文字の入力・編集(60.0%)と、実際にスライドを作成している人が多かった。 Accessは利用者は8名と少ないものの、データ入力(75.0%)のほか、リレーションシップなどを半数が使用していた。 Outlookは、全員がメールを使用し、ほかは予定表の利用(43.6%)が目立った。 ■使用しているその他のアプリケーション OCRソフトが7件と最も多かったほか、PDF変換ソフト、Skype for Businessやグループウェア、Google Appsなどのコミュニケーションツール、さらに、会計ソフトなど幅広いアプリケーションが使用されていた。 (3)スキル習得に関する結果 ■PCの習得方法 最も多く挙げられたのは独学(71.3%)であった。 視覚障害者向けパソコン教室(43.5%)を挙げた人に比べて、視覚障害者リハビリテーション施設(30.6%)やジョブコーチ(7.4%)など公的な支援のもとで学んだ人は少なく、制度が十分浸透しているとは言えない現状が明らかとなった。 ■就労に必要なPCスキルを習得するための訓練受講の有無 ※単一回答(回答数107)  ==表ここから== 有 47人 43.9% 無 60人 56.1%  ==表ここまで== ■訓練で役立ったスキル 全体を通して、Officeに関する事項が最多であり、Excelの基礎的な使用方法や関数の使い方、Wordによるビジネス文書の作成ができるようになったとの意見が多かった。 次いで、画面読み上げソフトウェアの操作方法を習得できたことに加えて、マウスを使用しない効率的な作業方法を習得できたとの記載があった。 ■PCスキルを習得する際に困難を感じる点 ※複数回答  ==表ここから== 周りに教えてくれる人がいない 43人 39.8% どこに聞けばいいのかわからない 25人 23.1% 専門の訓練機関やパソコン教室を知らない 8人 7.4% 専門の訓練機関やパソコン教室が近くにない 24人 22.2% 専門の訓練機関やパソコン教室を制度上利用できない 7人 6.5% 職場の了解が得られず専門の訓練機関やパソコン教室を利用できない 12人 11.1% 希望する時間に訓練を受けられない 35人 32.4% 受講のための費用を負担できない 17人 15.7% その他 19人 17.6%  ==表ここまで== ■仕事をしながらPCスキルを高めるために、専門機関の支援が必要と感じるか? ※単一回答 n=107  ==グラフここから== はい 73.8% いいえ 10.3% わからない 15.9%  ==グラフここまで== ■求められているスキルでまだできていないもの レイアウト調整や色を使った表現など見栄えの良い資料を作成するためのスキルが最も多く挙げられた。 ソフトウェア別にみると、Officeに関するものが最多であった。中でもAccessによるデータベース作成やExcelVBAを利用した処理の自動化方法など、高度なスキルを求められているとの記述が多くみられた。 ■訓練で取り入れて欲しい内容、要望、意見 ExcelやWordといった広く使用されているアプリケーションに関しての記述が多く、職業訓練・講習を通して習得したスキルを業務幅の拡大や効率化などに活かしたいと考えている視覚障害者の声を聴くことができた。 また、今後主流になっていくであろうクラウドサービスに対する不安、制度や地域により、受けられる訓練や得られる情報に格差が生ずることに対する意見・要望もみられた。 結論 視覚障害者が職場で使用しているPCスキルは高度化、多様化しており、それに対応できていないとの声も多かった。 そして、職業訓練への期待と要望は高まっており、そうした声に応えられる職業訓練実施の体制整備が今後の課題だと言えよう。