1ページ 広報誌 SPAN2024 第10号 2024年7月発行 ~ 視覚障害者のPC・ICT利用を進めるための掛け橋となることを目指して ~ ICTで視覚障害者の社会参加と就労を支援 SPANは 視覚障害者のSの略 パソコンのPの略 アシストのAの略 ネットワークのNの略 生成AIは視覚障害者に何をもたらすか? ~ 新しい技術に目を向け続けたい ~ 最近話題を呼んでいる生成AI、私たちの社会にいろいろな影響を与えています。 よく知られているものとしては、ChatGPTやMicrosoft Copilotなどがありますが、ほかにも多くのツールが開発されています。 ただ、これらが視覚障害者の生活や仕事にどうかかわってくるのか、また活用方法などについては、まだほとんど分かっていないのが現状だと思います。 しかし、私たちは、こうした新しい技術に関心を持ち続け、その長所や限界、また使い方などについて考えていくことが必要だと思います。 SPANは微力ですが、常に最新の技術に目を向けながら、視覚障害者のICT利用を進めるために活動していきたいと考えています。 イラスト:生成AIに関係するイラスト2枚(右上:生成AIのイメージイラスト:VR眼鏡をつけた人物が人差し指で空を指している。人物のまわりにはさまざまな色と大きさの〇。〇と〇は線でつながり、ネットワークのような印象。情報を選び取っているイメージ。/左下:生成AIのイメージイラスト:モニターを持った男性と画面の中から浮き上がって「Need help?」と話しかけているAI風女性) SPANの活動理念* SPANは、1999年11月に発足し、2001年にNPO法人の認証を受け、視覚障害者のパソコンやICT(情報通信技術)の利用が快適・積極的に進むよう、点在する組織や情報を繋ぎ合わせることを目指す有志によって活動を続けています。 SPANの特徴と活動* ・特徴 ・ 視覚障害者と晴眼者が同じ立場で活動している ・ 初級講座から資格取得、職業訓練まで、幅広いニーズに応えられる ・ Microsoft Officeのマニュアルなど、豊富なテキストを制作 ・ 通信アプリを利用した遠隔講座など、多様な講習形態に対応 ・ パソコンやスマートフォン・タブレットPCなど、最新の技術にチャレンジ (縦方向箇条書きリストで表示:連続性のない情報ブロック、またはグループ分けされた情報ブロックを示すのに使用するスマートアート。長い見出しのあるリストや上位レベルの情報に適しています。) ・活動  資格取得を含むPC等ICTツールの講座開催と普及  サポートスタッフへの講習会の開催  社会参加と就労を支援  PC等ICTツールの活用促進のための情報収集と提供  ハード/ソフトウェアの評価及び提言  個人や団体、行政との情報交換  他の関係団体の設立及び運営支援  機関紙の発行  企業・行政・団体からの教育・調査研究の受託 (カード型リストで3×3で並べて表示:連続性のない情報ブロック、またはグループ分けされた情報ブロックを示すのに使用します。図形の表示領域を縦横両方向に最大限に使用します。) 2ページ これまでの活動 2023年1月~2024年5月活動実績 講座・職業訓練等 ○遠隔ワンポイント講座 Microsoft Office、Googleアプリなどをテーマに15回実施 ○個人対象講座・グループ講座 受講する方のニーズに応じた内容で対面により12回実施 ○遠隔個人講座、遠隔グループ講座 受講する方のニーズに応じた内容で34回実施 ○日商PC検定受験対策コース 遠隔で25名に対して実施 ○無償での遠隔就労PCサポート 受講者のニーズに合わせて13名に対して実施 ○インストラクター養成講座 視覚障害者へのパソコン指導の基本を学ぶ講座として対面と遠隔により8回実施 ○タブレットサロン iPhone、iPadを学ぶ場として対面と遠隔で17回実施 ○在職者訓練 在職中の視覚障害者への職業訓練を対面と遠隔で12社に対し実施 ○ジョブコーチ・障害者雇用管理サポーター支援 在職中の視覚障害者への就労支援を366回実施 ○企業研修 在籍する視覚障害者への職業研修を遠隔により5社に対し実施 ○自治体、企業・団体からの委託によるパソコンやタブレットなどの講座を対面と遠隔で8回実施 イベント等 ○第31回視覚障害リハビリテーション研究発表大会 in 金沢 ポスター発表とシンポジウムで参加 ○ロービジョンセミナー パソコン相談で出展 ○視覚障害者就労支援機関の情報交換会 情報共有をテーマに発表 ○企業が主催する川畠成道ニューイヤーコンサート iPhoneによるプログラム読み上げデモを会場で実施 テキスト制作・情報提供 ○立体イメージプリンターの活用 日商PC検定の受験者にグラフイメージの立体資料を制作・提供 ○日本盲人福祉委員会の助成を受けてGoogleアプリのマニュアルを制作 写真1:第32回視覚障害リハビリテーション研究発表大会 in 金沢 在職者訓練をテーマとしたポスター発表の様子 写真2:さいたま市での受託講座の様子 iPhoneの使い方を学ぶ参加者のみなさん。 これからの活動 2024年活動予定 (6月~12月) 講座・職業訓練等 ○遠隔ワンポイント講座 Microsoft Office、Googleアプリなどをテーマに実施 ○個人講座、グループ講座 受講者からの依頼により、オーダーメイドの講座を対面と遠隔で実施 ○サポーター養成講座 従来のインストラクター養成講座の内容を一新して実施 ○タブレットサロン iPhone、iPadを学ぶ場として遠隔で実施 ○研修事業 企業・行政機関・団体等を対象に視覚障害のある社員・職員への研修を実施 ○在職者訓練 在職中の視覚障害者への職業訓練を対面と遠隔で実施 ○ジョブコーチ・雇用管理サポーター支援 在職中の視覚障害者への就労支援を職場を訪問して実施 ○日商PC検定受験対策コース 日商PC検定の受験を目指す方を対象に遠隔で実施 イベント等 ○第32回視覚障害リハビリテーション研究発表大会 ポスター発表で参加 ○ロービジョンセミナー SPANの活動紹介で出展 ○視覚障害者就労支援機関の情報交換会 発表で参加 3ページ インタビュー 心に寄り添う支援を目指して 田村 遥果 さん 20代、弱視、 徳島県立障がい者交流プラザ 視聴覚障がい者支援センター(支援員) Q1 SPANをご利用いただいた切っ掛けを教えてください。  センターに入職して、新任研修としてSPANの講習をオンラインで受けました。  徳島県立障がい者交流プラザ 視聴覚障がい者支援センターは、県内の視覚聴覚に不便さを持つ方への支援を幅広く行っています。  私自身ロービジョンですが、学生のころは音声読み上げは誤字の確認をする補助程度にしか使っていなかったので、支援員としてICTサポートをするためのスキルとともに、自分自身が業務を効率的に行えるようになることを目指しての研修でした。 Q2 徳島県立障がい者交流プラザ 視聴覚障がい者支援センターでのお仕事の様子を教えてください。  公認心理師と臨床心理士の資格を持っているので、メインで担当しているのは、相談支援です。 電話や来所される方の相談を受けていますが、パソコンやスマートフォンに関する質問も多く、ICTサポートの頻度も高いと感じています。  また、センターでは定期的に様々な文化に親しむためのカルチャー講座も開催しており、毎回テーマの異なる催しにスタッフとしてかかわっています。 Q3 お仕事や生活の中で、SPAnの講座を通して、できるようになったこと、活用していることなどありますか?  業務の点では、講習を受けてから大きく効率が上がりました。音声と視力を併用し、キーボードを中心とした操作ができるようになりました。学生のころまでは、マウス中心の操作しか知らず、視野障害のために、マウスポインターを見つけたり、動かしたりするのに不便さを感じていたので、ストレスが減りました。今は、キーボード8割、マウス2割程度で、自分にとって使いやすいバランスで活用しています。  自分自身も使えるようになったことで、支援の場でも、質問に応えやすくなりました。研修中には、単にそれぞれの操作方法だけでなく、支援の場での言葉での伝え方の工夫や、心構えもお話していただいていたことが印象に残っています。利用者さんを前にサポートするとき、先生の言葉がよみがえることがあります。 Q4 心理学を専攻され、資格を活かしながらお仕事していると思いますが、目指したきっけはありますか?  人の話を聞くことが好きだったことと、私自身が進行性の視覚障害だったことがきっかけです。今は知識がありますが、学生時代は何も知らず、「視覚障害者でも事務職をしているのは見えている弱視の方なんだろう」と思っていました。今後視力が落ちていってもできることを考えた時に、人の話を聞く仕事は続けられるのではないかと考えて、心理を専攻しました。  視覚障害ゆえに心のケアが必要なことは、少なからずあると思いますが、「視覚障害者への心理的ケア」のような専門的な研究は少なく、学生時代の授業では、授業の中に、視覚と聴覚の障害をテーマにした回が1コマあっただけでした。障害者の中でも人数の少ない視覚障害者へのケアが、充実していくといいなと思っています。 Q5 今後、SPANに期待することはありますか?  オンラインで講習を受けましたが、対面と遜色のない充実した内容だと感じました。私が操作している様子を、先生がしっかり把握して、その都度適切な指示をしてくださっていました。  都市部に比べて徳島などの地方では、支援施設が限られ、地域の施設に行くのも難しい遠方の方は少なくないと思うので、遠隔での講座が広がればと思います。  また、最近は、同世代の同じ病気を持つ方たちと話すことがありますが、公務員として就職したものの、パソコンなどのスキルを思うように習得できないという状況をよく聞きます。休職中だったり、民間企業に就職した場合は、受けられる支援がありますが、障害のある公務員が受けられる研修などの支援がないのは、もったいないと感じます。  このように、必要としている方たちに、今後SPANの講座が普及していくことを期待しています。 聞き手: 上田 喬子 視覚障害者でもいろいろな職業選択が出来る社会になってほしい! 山元正史さん 30代男性 弱視・視野10度 Q SPANを知ったきっかけは? A 私がわが県の県庁の職員初で唯一の視覚障害者であることからどのようなサポートが必要なのか上司も対応の仕方に困り、話を聞きに行った障害者就業・生活支援センターでSPANと日本視覚障害者職能開発センターを紹介してもらいました。 Q スパンではどのような講座を受講されましたか?また、その感想は? A オンラインで全10回の在職者訓練を受けました。PCトーカーの操作について基礎から学ぶことができて勉強になりました。残念ながら、実際の業務ではPDFなどPCトーカーでは読み上げできない文書を扱うことが多いので、十字カーソルや拡大鏡など視覚補助機能を用いています。将来的に視力が低下したときは改めて訓練を受け直す必要があるだろうと感じています。 Q 仕事内容について教えてください。 A 今年度は障害福祉課に配属されており、厚生労働省が推進している障害者ICTサポート総合推進事業の一環としてICTサポートセンター設置に向けて、まずは県内を6か所に分け、視覚障害当事者を対象としたiPhone体験会を企画しています。 Q 仕事をする中で感じたことなどを聞かせてください。 A 公務員はジョブコーチを利用することができません。日本視覚障害者職能開発センターで研修を受けたくても都道府県によっては休職扱いになってしまいます。日本全国どの都道府県でも研修扱いでパソコンなどの研修を受けることができたら公的機関で働くことができる視覚障害者が増えるだろうと思います。あはきはすばらしい職業ですが、地方の視覚障害者の職業選択はあはきをする以外にないと言われたケースを当事者からよくお聞きします。あはき以外にも、もっと視覚障害者に職業選択の幅があることを知ってもらいたいです。視覚に障害があっても工夫をすれば事務職などで働くことができます。公務員の就職について相談のある方はSPANを通してご連絡ください。 Q そのほかにどのような活動をされておられますか? A 視覚障害者就労相談人材バンクとJRPS(日本網膜色素変性症協会)のミドル会に所属して就労相談に乗っています。視覚障害者就労相談人材バンクでは、いろいろな職種の方とマッチングして実際の働き方などを聞く事が出来ます。興味のある方は、ホームページからお問い合わせください。 Q SPANに期待することはありますか? A SPANのことは知っていても、地方の視覚障害者は東京まで行かないとSPANの講座を受けられないと思い込んでいる人が多いように感じます。オンラインで受講できることやiPhone・iPadの講座の周知にも力を入れてもらえるといいなと思います。 Q みなさんへのメッセージをお願いします。 A 視力低下が進行しつつある当事者にとって、自分が障害者であることを受け入れるのはつらいことです。私は白杖を持つことに抵抗を感じて、白杖を持てるようになるまで3年かかりました。できるなら、今でも白杖を持ちたくないというのが本音です。障害を受け入れてそれなりにできるようになる、レールを引かれた経験があります。その時は、当事者でも分かってもらえないことってあるのだと思ったのを今でも覚えています。私自身も、それからはポジティブを押しつけないようにすることを心掛けています。同じ立場の仲間と不安を分かち合い、障害者になりきることに抗う、決して前向きではありませんが、私はそんな悩める当事者の不安に寄り添う仲間であり続けたいと思っています。 聞き手 平川 純 4ページ SPANの活動紹介 企業等に対する就労支援事業 SPANでは10年以上にわたり、ICT(情報通信技術)を通した視覚障害者への就労支援を実施してきました。 現在も、在職者訓練やジョブコーチ(職場適応援助者)により、就労中の視覚障害者とその職場に対する支援を行っています。 しかし、こうした公的な支援は、全国どこでも同じレベルで受けられるわけではありません。 それを補うため、SPANでは、企業や行政機関、学校、団体など、視覚障害者が就労する組織への支援を行っています。 全国どこからでも利用が可能ですし、内容も職業訓練だけでなく、職場環境の整備や仕事の切り出しなど、視覚障害者が就労するための支援をトータルで実施します。 詳しくは下記のSPANのサイト内の「就労支援を希望される企業・団体の方」をご覧ください。 https://span.jp/lesson/jobsupport.html SPANでは、職業スキルの向上を目指す方はもちろん、ICTスキルを高めたい方、また支援をする方のために 以下の講座や訓練、支援を実施しています。  ・個々のニーズに応じてマンツーマンで学ぶ個人対象講座  ・数名で同じテーマを学ぶグループ講座  ・テーマを決めて実施するワンポイント講座  ・通信アプリZoomなどを利用した遠隔講座(個人・グループ・団体)  ・就労中の視覚障害者を対象とした在職者訓練、社員研修  ・就労する視覚障害者とその職場を支援するジョブコーチ、雇用管理サポーター  ・視覚障害者を支援する方のためのサポーター養成講座 ○写真:SPANの教室、講習の様子 「レインボープラザ」の愛称で呼ばれ、明るくコンパクトな教室です。 写真終わり ○ご寄付のお願い 私達は視覚障害者がICTを使いこなすことにより、自立し社会参加、就労していけるよう活動していますが、公的な補助を受けず自主運営している団体です。 皆様からのご寄付が活動を維持するための貴重な財源となっています。 この活動に共感していただける方のご支援をお願い致します。 振込先 郵便振替口座 00110-4-183315 スパン寄付金口 銀行等からの振込 銀行名 : ゆうちょ銀行 金融機関コード : 9900 店番 : 019 店名 : 〇一九店 預金種目 : 当座 口座番号 : 0183315 2024年7月1日 発行 特定非営利活動法人 視覚障害者パソコンアシストネットワーク(SPAN) 〒108-0023 東京都港区芝浦3-7-13 エスパース田町ANNEX701 電話&ファクシミリ 03-6435-1614 E-mail office@span.jp URL https://span.jp/ Facebook https://www.facebook.com/span.jp X https://twitter.com/npo_span 〇QRコード:SPANのホームページ(裏表紙右下)