視覚障害者が所有する資格、取得したい資格 視覚障害者パソコンアシストネットワーク(SPAN ) 北神あきら、中川文 このアンケートは、社会福祉法人 日本盲人福祉委員会からの助成で実施しました。 目的・実施方法 視覚障害者が現在所有する資格、今後取得したい資格を調査することにより、 資格取得の現状を明らかにするとともに、資格取得の環境を改善するための 指針とすることを目的とする。調査は、アンケートにより実施した。回答者の募集は、メールやSNS などを通して行い、107 名から回答が得られた。 (1) 回答者属性 ■性別:男性(32.7 %)、女性(67.3 %) 有効回答数107 ■年代:20代(2.8 %)、30代(18.9%) 、40代(27.4%) 、50代(36.8%) 、60代〜(14.1%) ■身体障害者手帳(視覚障害)の等級:1級と2級で91%を占めた。 ■墨字の見え方※単一回答 n=105 目では全く読めない 53.3% 補助具を用いれば読める 41.9% 補助具なしで問題なく読める 4.8% ■PC情報取得※複数回答 n=106 音声 92 画面調整 43 ピンディスプレイ 11 使用なし 1 ■PC入力ツール※複数回答 n=105 キーボード 105 マウス 43 音声入力 13 画面タッチ 10 タッチパッド 8 トラックボール 1 ■職業※単一回答 (回答数103) 会社員 45人(43.7%) 福祉施設職員4人(3.9%) 自営業 14人(13.6%) 団体職員 3人(2.9%) 教員 10人(9.7%) 主夫・主婦 2人(1.9%) 医療機関職員 8人(7.8%) 学生 1人(1.0%) 無職 8人(7.8%) その他 4人(3.9%) 公務員 4人(3.9%) (2) 資格の取得状況 ■取得済み資格(選択一覧より) ※複数回答(回答数70) 1.あん摩マッサージ指圧師 25人(35.7%) 2.教育職員免許 22人(31.4%) 3.針師、灸師 20人(28.6%) 4.日商PC検定 16人(22.9%) 5.社会福祉士 7人(10.0%) 6.秘書検定 6人(8.6%) 7.産業カウンセラー 4人(5.7%) 8.日商簿記検定 4人(5.7%) 9.理学療法士 3人(4.3%) 10. ケアマネージャー 3人(4.3%) 11. FP技能検定 3人(4.3%) 12. キャリアコンサルタント 3人(4.3%) 13. ビジネス電話検定 3人(4.3%) 14. ITパスポート 2人(2.9%) 15. 社会保険労務士 1人(1.4%) 16. M O S 1人(1.4%) 17. サーティファイ(Excel ・Word ) 1人(1.4%) ■取得済み資格(その他自由記述)※複数回答(回答数55) 語学系、福祉系、医療系、PC技術・情報処理関係、建築・建設関係など、多種多様な資格があげられた。 回答数上位の資格は、降順で実用英語技能検定(英検)、ワープロ検定、TOEIC 、日商簿記検定、宅地建物取引士、介護職員初任者研修(ホームヘルパー)、点字技能士、メンタルヘルスマネジメントである。 ■受験や資格取得のための講習における配慮 時間延長、音声PC利用、画面調整、録音での読上げ、朗読者読上げ、点字使用、拡大ツール、拡大文字 「時間延長」については、多くの資格において配慮されていた。視覚障害者の学校や訓練機関での受験体制が整っている資格では、配慮においても整っている資格が多かった。(あん摩マッサージ指圧師、針師、灸師、点字技術関係など) 近年の変化としては、音声PC受験が可能になった資格が多くなってきたことである。 その他の傾向として、「朗読者読上げ」が配慮されている資格が多くあげられたが、朗読者との相性や技術面での問題を指摘する声が多かった。 配慮-音声PC利用※複数回答(回答数26) あん摩マッサージ指圧師、日商PC検定、管理業務主任者、針師、サーティファイ、産業カウンセラー、 灸師、WEB クリエイター、キャリアコンサルタント、介護職員初任者研修、ワープロ検定、 秘書検定、UDコーディネーター、コンピューターサービス検定、ビジネス電話検定、 教育職員免許、パソコンスピード認定、ボランティアコーディネーション力、 IELTS、C言語プログラミング能力認定 ■学習方法、使用教材の種類※複数回答(回答数83) 学習方法については、約半数の人が「独学」と回答していた。目立った傾向としては、一般の職業訓練施設を利用した人がほとんどいなかったことである。一般の職業訓練での学習環境が整っていないことがうかがえる。 使用教材の種類については、「データ」と「一般の墨字の教材」と回答した人が半数いた。「一般の墨字の教材」と回答した中には、自分で加工して使用する場合も含まれていると思われる。 資格取得の学習では、最新の教材が必要な場合が多く、そういった教材は墨字以外で手に入れるのは難しいのが現状である。 DAISY や点字を利用している人も20〜30%いたが、利用できるまでに時間と手間がかかっていることが予想できる。 ■不便や困難を感じた点※複数回答(回答数77) 「時間が足りない」が最も多い回答だったが、その他の声として配慮に対する不便や困難をあげた人が多かった。 「PC受験の配慮があっても解答用紙は墨字のみ」「点字の問題用紙が用意されていたが、解答用紙は点字に対応していなかった」「PCとプリンターを自前で持ち込むのが大変だった」など、一方的で限定的な配慮についての意見が多くあげられた。 (3) 取得したい資格※複数回答(回答数68) 取得したい資格では、語学系、福祉系の技術関係、医療系、PC技術・情報処理関係、 建築・建設関係など、多種多様な資格があげられた。中でも語学系の実用英語技能検定(英検)やTOEFL 、PC技術・情報処理関係のMOS などへの関心が高かった。 ■希望する配慮※複数回答 希望する配慮では、80%以上の人が「音声でのPC利用」を希望していた。希望する教材の形式もPC利用を前提とした「データ」を望む声が最も多くあげられた。 N=98 音声でのPC利用 80 試験時間の延長 78 録音による読上げ 44 拡大ツールの使用 35 朗読者による読上げ 32 画面調整PC利用 31 点字の使用 26 拡大文字による提供 26 その他 19 配慮の必要なし 2 ■希望する教材※複数回答 n=97 データ 82 Web ページ 54 録音図書 51 点字 21 拡大文字 20 一般の墨字 11 その他 9 希望なし 1 (4) 資格取得についての意見 資格取得に関する情報提供や受験対策などを行う仕組みの必要性、資格をいかす場などについて、多くの意見が寄せられた。必要な教材を確保することの難しさ、墨字の教材を点訳・音訳・データ化する作業における個々の苦労がうかがえた。多くの資格試験で教材のデータ化、PCでの受験が標準化されることを望む声が多かった。 資格取得が視覚障害者の就労(継続)の可能性や幅を広げることに繋がることが重要であり、資格取得後の働き方や環境のことまでを考慮した体制づくりの必要性を訴える意見が多く寄せられた。 考察と今後への展望 資格取得への関心が高まっていることから、情報提供や試験実施機関との調整などを担う組織が求められている。 音声PCでの受験が可能になった資格が徐々に増えている。(秘書検定、日商PC検定、産業カウンセラーなど)これらの資格は、近年多くの人の働きかけによって試験機関との協力関係を築くことができたことによる成果だと思われる。 音声PCでの受験やデータでの教材提供の希望が多く、それらに対応した受験対策講座や教材作成を担う体制整備が必要。 取得した資格をいかすため、関係者や社会に対し、広く発信していくことが重要。 上記の課題に対し、SPANは積極的に関わっていきたい。